UCCHAN-BLOG

株式会社enmono技術担当取締役で自社製品開発講座「zenschool」やってる人。モノづくりと禅に関係性がありそうと言うような感性をお持ちの方とは仲良くできるかもしれないです。論理的ではないと忌避感をお持ちの方とは話が噛み合わない気がします 笑

Chapter 1/プロデューサーとは
プロデューサーの興味・関心がクリエイティブ面に向かうのはいいのだが、忘れて欲しくないのは、「そもそもプロデューサーはビジネス(もう少しわかりやすく言えば、“お金を稼ぐこと”)ができなければダメだ」ということである
もちろん、こうしたビジネス(=お金を稼ぐ)面の話だけをプロデューサー論として語るのは、偏った話であり、バランス感覚がプロデューサーにとって大切だ。
業界内では“製作”と“制作”を通常分けて使う。
ビジネス的観点から言えば、“制作”のほうは、発注を受けて、作品を作り、作った作品を納品して終了である。
“製作”はというと、企画を立て、それをブラッシュアップし、お金と人を集めて、制作し、できた作品を今度は商品としてプロモーションし、セールスし、お金を稼ぎ、クリエイターやスタッフに報酬を支払い、お金を投資してくれた人には投資額を上回るリターンを戻し、最
後に自分たちの分としてしっかりお金を残す……この一連の過程のことを言う。
そしてこの製作のプロジェクトリーダーがプロデューサーだ。
ちなみに、制作の中心がディレクター(監督)と理解しておいてかまわないだろう。
日本はモノ作りの国らしく、優秀なディレクターは猛烈にたくさんいる。
しかし、それに比べて、優秀なプロデューサーは、まだまだ少ないようだ。
プロデューサーでありながら、作ることのみに関心があり、制作費が集まった瞬間、そこから先は「作る!」ということしか考えず、「リクープ(回収)する、儲ける」という発想をあまり持ち合わせていない方を残念ながらまだ見かける。
これでは監督がいればいいわけで、プロデューサーの存在価値はない。
監督が持っているクリエイティブなものを、どうやってビジネスと結びつけるか、それこそがプロデューサーの付加価値ではないだろうか?
「プロデューサーの最終責任はお金の回収できる映画を作ることであって、いい映画を作っただけでは評価されない。作品で評価されるのは監督なんだから。
プロデューサーは作品を世に出すだけでは半分。
資金を返して初めて100点になり、評価が上がるんです。」
ここまで述べてきたように、プロデューサーは、ビジネスマンでなければいけない。
プロデューサーが作るべきものは、以下の「拡大していく循環」である。
「最初に資金を集める→その資金を使って商売をする→商売をすることで最初の資金の何倍ものお金を手に入れる→資金提供者にお金を増やして返す→資金提供者からのプロデューサーに対する信用が増す→プロデューサーはさらなる巨額の資金調達能力を得る→さらに大きな商売ができるようになる」。
「例えば映画で一番楽しいのは『こういう映画作ろうよ。こういう俳優を使おうよ。
こういう展開にしようよ』とビジョンを語っている時なんですね。
これは一番楽しくて、監督も脚本家も僕たちも皆一緒にやっているわけです。
ところがいざ映画がクランクインした時、監督やスタッフはそのまま酔ってていい。
阿波踊りなら踊る阿呆でいいんです。
それが結果として良い作品に結びつく。
でもプロデューサーはクランクインした時、一緒に酔っていてはいけない。
意識して引かなくちゃいけないんです。
というのも宣伝とか配給とか興行とかがありますから。
あるところまで一緒に酔っていたのが、『皆は酔ってていいなあ』と思いながら僕は酔えないで見る阿呆になってる。
なんだか自分から進んで仲間外れになっている感じですね。
プロデューサーが現場で必要とされるのは、悲しいことにトラブルがある時なんです。」
Chapter 2/プロデューサーに対するニーズはかつてなく高い
Capter 1で、プロデューサーに求められる要件は、経営者に求められる要件に限りなく近いと書いたが、経営者に必要なのはエネルギーと情熱である。
仕事ができ、知識があっても、パッションを感じさせないと人はついてこない。
プロデューサーに関しても全くこのことが言える。
「優れたプロデューサーになるには、資質(先天的なもの)と教育(知識)が必要である点は予想通りであったが、意外にもドライにビジネスライクで物事を進めるというイメージがあるアメリカで、精神論を耳にすることが多かった。
多くの教授たちが力説していたのは、情熱、チャレンジする心、忍耐力、起業家精神(新しく物事を始める精神)などである。」とあり、欧米
のフィルムスクールにおいても、冷静と情熱のバランスが確実に重要視されていることがわかる。
また、特に日本においては、自分が目指すコンテンツが好きであり、アーティストに共感する心を持っていることも非常に重要である。
映画を例にとると、素晴らしい監督や俳優、脚本家といった方々の中には、ナルシストであったり、自己中心的であったりといった、いわゆる変わり者の方々も多い(だからこそ、彼らには集中力があり、素晴らしいクリエイティビティを発揮する)。
そんな彼らとうまく付き合うには、彼らをリスペクトする気持ちが不可欠である。
Chapter3 ビジネスの視点から見たプロデューサーに必要なこと
自己資金が無理なら他人のお金ということになる。他人から資金調達をするとなると、どうしても金融、会計、税務の知識が必要になってくる。
ちなみに、金融機関の世界においては、「数字が全て」と思っておいたほうがいい。
つまり数字が伴わない話は、何も話していないに等しい。
エンタテインメントの世界で仕事をされている方々は、想像力や創造力が根本の仕事をしているため、プレゼンテーションの仕方も想像力をかきたてるような手法になりがちだ。
通常のプレゼンはそれでいいのだが、金融機関の方々へのプレゼンの際は少しやり方を変えたほうがいい。
とにかく数字を使って説明すべきだ。
ただ残念なのは、エンタテインメント業界には、あまり数字の記録が保存されていないし、概してどんぶり勘定で通ってきている。
金融、会計、税務の知識を持っていないので、金融機関に対する説明能力も備わっていない。
このように、お互いに理解しづらい関係ができあがってしまっているのが現状だ。
金融機関から見て、エンタメ業界は伏魔殿であり、逆もまた真である。
資金調達能力を高めるためには、ぜひとも金融、会計、税務の知識を身につける必要がある。
ちなみにハリウッドでは、エンタテインメント専門の弁護士や会計士が多数存在しており、多くの投資家や金融機関の資金をハリウ
ッドに還流させるべく活躍している。
前に述べたように、プロデューサーはビジネスマンでなければいけないので、商品に対するセールス能力や、そのノウハウがいかに重要かということを理解している必要がある。
今、全ての産業で言われているのは、「グローバルな競争」と、「需要者(消費者)視点の重視」だ。
既に多くの産業で、海外の企業との戦いが本格的に始まっている。
モノが不足し、作れば何でも売れる、供給者の力が強い時代は過ぎ去り、モノが満ち溢れた現在では、見る目が肥え、より贅沢でより傲慢になった消費者のニーズを的確に掴む努力をしなければ、彼らは見向きもしてくれない。
ただマーケティングといっても、単純な定量調査では過去のことしかわからない。
映画がクリエイティブなものである以上、新たな仮説を立て、マーケットの反応を見て、検証していく……という手順を踏んで、新しいものを作り出していくべきだろう。
マーケティングというと難しく聞こえるならば、まずは「ターゲットをきちんと決める」ということから始めればいい。
やりたい企画があるとする。
そうしたらまず「これは誰の興味を惹くのだろう?」と考え、「そういう“誰”って何人ぐらいいるだろうか?」と考える。
「そのうち、映画館まで足を運んでくれる人の割合が……」と考えていけば、作っている人々だけが楽しい、観客にとってはつまらない映画を作らないですむ。
また、そういったことを考えたうえで逆算していけば、その映画に制作費をいくらかけられるかがおおよそわかり、その制作費で作れない内容であれば、納得してあきらめることもできる。
誤解を与えたくないので確認しておくが、こだわりというのはもちろんものすごく大切な部分である。
しかし、それを捨てなくてはいけない場合もあるということだ。
自分がイイと思ったことでも、観客に受け入れられなければ、……特にプロデューサーは編集の仕方をガラリと変えるくらいの潔さを
持っていたほうが良いのではないだろうか。
イイモノを作って、多くの人を楽しませるためには、作品の良し悪しも、観客に近い視点で判断すべきだろう。
「プロデューサーというのは経営者に似ている」ということを前述した。
企業の社長は、ビジネスのネタや、優秀な人材を常に探している。
「才能を見つける力」や「ヒットの種を見つける力」は、プロデューサーであれば必ず持っていなくてはいけない能力だ。
そのためにはマーケティングの発想が必要なことは既に述べた。
豊かな才能やヒットの種といっても、それは時代時代によって変わる。
今は何が受けるのか……そういう目でいつも周りを見渡していることが大切だろう。
目利きの能力というのは、非常にプロデューサーっぽいものだ。
プロデューサーは直接作るという手法でクリエイトしなくても、選ぶことが彼のクリエイトの手段になるのだ(プロデューサーは作る能力を持っていなくても、選ぶ能力、探す能力があれば、立派なクリエイターなのだ)。
ハリウッドでは非常に重要視されている過程だが、いい種を見つけたら、方向性を示し、適材な経営資源をつぎ込み、育てる……いわゆる「ディベロップメント」という過程がある。
ディベロップメントには、色々な作業があるが、大きな流れとしては、原作や企画を探し、それを脚本に落とし込み、その脚本をブラッシュアップさせていく作業だ。
作家は一点を深く強く見る目を持っていていいのだけれど、プロデューサーは複眼の思考をしなければならない。
複眼の思考と柔らかい頭と僕はよく言うんですが、これはプロデューサーにとって最も必要なことです。
「映画制作のための時間が20%、ディールする時間が80%」……この名言は「サンセット大通り」や「麗しのサブリナ」などを世に出した職人的名監督ビリー・ワイルダーのものである。
事実、プロデューサーはディール(契約)をしている時間のほうが制作している時間よりもずっと長い。
当然、映画製作の中で契約がそれだけ大きな部分を占めているということで、権利や法律についても詳しくなければならない。
「『現場の製作費はすなわちコスト、原価である』という考え方に立ち、原価管理を徹底させようじゃないかと、いろいろなことを調べていきました。
今まで日本の映画の作り方は良くも悪くもどんぶり勘定で、10パーセントぐらいの誤差なら何とも思わない。
5億円の映画を作ったら5000万や6000万は平気でオーバーするのが武勇伝のように語られる世界だと。
僕は、それではビジネスにはならないという感覚でとらえていまして、とにかく弁当1個からきっちり管理しようということから、最終的にコンピュータのソフトにまでいってしまったんです。」
要するに、コンテンツが何であれ、数字に強くなければ、正しい判断は行えないということだ。
映画製作を行うにあたっては様々なリスクが存在する。
最も皆が気にかけているのが、ビジネスリスク(ビジネス的に儲からないリスク)と完成リスク(映画製作を始めたものの、映画が完成しないリスク)ではないかと思う
が、これ以外にも無数のリスクが考えられる。
例えば、資金調達リスク(制作資金が集まらないリスク)、出演者リスク(出演者がトラブルを起こすリスク)、制作費超過リスク(制作費が予算を超えてしまうリスク)、天候リスク(天候状況により、制作が滞るリスク)、契約リスク(契約書等の不備により、著作権や利益分配の方法等でトラブルが発生するリスク)、倒産リスク(製作にかかわる会社が、資金繰りの悪化等で倒産するリスク)、法律リスク(製作の過程で、法律違反をしてしまうリスク)、税務リスク(税法の改正や、税務当局との見解の不一致により、予想を超える税金支払いの義務が発生するリスク)、回収リスク(売掛債権や収益分配請求権といった債権の回収ができないリスク)、訴訟リスク(原因は何であれ製作上のトラブルにより訴えられてしまうリスク)等々、ここに出したのはほんの一例で、挙げ出したらきりがない。
こういった中にあって、プロデューサーは映画製作におけるリスクを管理していかなければならない。
そのためには第一に、どういったリスクを自分が行っているプロジェクトが内包しているかを知らなければならない。
リスクが表面化してから初めてリスクの存在に気がつくようでは、対処など覚束ない。
こうしてリスクの存在を把握したならば、次に、把握したリスクをコントロールしていかなくてはいけない。
全てのリスクを消し去ることが理想ではあるが、そういった映画製作は皆無ではないかと思う。
どのリスクを受け入れ、どのリスクを消去していくか、プロデューサーは判断していくのだ。
プロジェクトごとにリスク許容度は違うし、許容されるリスクの種類も異なる。
表面化しても、何とか耐えられるリスクと、表面化してしまえば、プロジェクト自体が立ち行かなくなるリスクを見極め、消去すべきリスクは
消し去り、受け入れるリスクに対しては、表面化した場合の対策を事前に考えておく……こうしたリスク管理をしておくことは、プロデューサーをおいて、他の誰の仕事でもないのだ。
映画製作、映画ビジネスの世界には、様々な職種の人々が関係しているし、本当に色々な性格の人々が働いている。
特にクリエイターと呼ばれる人、ことに俳優や監督や脚本家というと、個性が強い人がほとんどだ。
そういう個性的な人たちともプロデューサーはうまくやっていかなければならない。
何かトラブルが発生した際、彼らを傷つけないことも重要だし、率直に言うことも必要だ。
そして一方で、それとは全く正反対の価値観を持つ金融機関やビジネスサイドの人たちもいる。
彼らとはロジカルに話し合って意思疎通を図り、うまくやっていかなくてはいけない。
また、業界内外の様々な人々にプレゼンテーションをして、自分の考えを明確に相手に伝え、理解させ、ものごとを進めていく必要がある。
このようなわけで、多岐にわたる人々とのコミュニケーション能力とリーダーシップをプロデューサーは身につけねばならない。